その日はなかなかに忙しい日であった。朝からでかけて、ちょうど昼時に1時間
ほど空きができた。1人だし、お蕎麦でもすすろうか、イヤでもさっき買ったマンガ
(「天才柳沢教授の生活」新刊を購入)も読みたいからな、と思案し、最近いくつ
かできたNewYorkスタイルのカフェというものに入ってみたのである。デリだとか
ベーグルだとかエスプレッソだとかなにかイメージはまとまらんのだが、とりあえず、
昼ごはんだ。
さて、明るい店内の大きなガラス窓に面したカウンター席に腰掛けてメニューを眺
める。ついでに眼下の道路も眺める。市電が淡々と走って行った。軽い食事とい
えば、サンドイッチだ。断然サンドイッチである。カフェという所には色々な種類の
サンドイッチが豊富である。よし、気合いを入れて選ぼう。いやいや、軽い食事で
あった、肩の力を抜いて選ぶとしよう。高級フレンチで価格に目を見張りつつ、食
べたい料理と懐の折り合いをつける、という場面ではないのだ。なにせ、500円台
だし。
だけども、油断をしてはいけないのだ。こないだも、うっかり頼んだサンドイッチが
運ばれて来たのを見たらば、緑色の薄皮にくるまれた、ぽたぽた、こぼれやすい
具がはみ出しているシロモノだった。これがサンドイッチか〜い!これを手づかみ
で食べるならば、必ずや具の汁はあごを伝い、セーターとズボンの膝に落ちるに
決まっている。そして、解って頂けるだろうか。なによりこのようなモノを頼んでしま
ったおばさんとしては、なんだかとても気恥ずかしい思いをしなければならない。な
ぜだか照れる。玉子サンドなんかだったら平気なんだけども。苦労してそれに
かぶりつきながら、安全なサンドイッチに思いを馳せたワタシであった。
今日はその学習の成果をみせようではないか。メニューを睨み付け、慎重に検討の
結果、「BLTサンドイッチ」に決めた。おばさんだからと侮るではない、これがベーコン、
レタス、トマトのサンドイッチであることは先刻承知だ。(ちなみにダンナはBLTが何
モノであるか知らなかった、勝った) きっと薄皮ではなく普通のパンに挟んであるに
違いない、とみた。この具にはそんなに大量のタレもついていない、とみた。これで
私は片手にサンドイッチ、もう片手に「天才・柳沢教授の生活」を持って読むことが
できるに違いない。
さて、私の予想はおおむね正確であり、軽い食事と読書の二つを同時に実行するこ
とが出来、嬉しかった。しかし、予想外の出来事がおこったので ある。「天才・柳沢
教授の生活」15巻は予想外に私を感動させた。感動のあまり涙腺が弛み(年をとる
と涙腺は大変締まりが悪くなるものだ)滂沱の涙を流してしまい、軽い食事と読書の
他に、鼻をかみ涙を拭くという作業までこなさなくてはならなくなった。忙しい上に、
なんとも恥ずかしいランチタイムとなってしまったものだ。