裏を返す

 
台風が近づく、大雨の夜にタクシーに乗っているワタシとダンナだ。
ダンナが言う。「いやあ、
俺は嬉しいよ。鮨屋のカウンターには滅多にいけないからな〜。うは。うははははは。」甲高
い声で笑うダンナだ。は、恥ずかしいじゃないか。タクシーの運転手さんが聞いている。この
夫婦は鮨も滅多に食べられないのか。そう、思われてしまうではないか。まあ、確かに事実
ではあるのだが、実は先週も鮨屋に出かけてはいる。しかも今日向かっている同じ鮨屋にだ。
前回、食べてたいそう美味しかったので、「裏を返す」という訳だ。この「裏を返す」という行為
は普段滅多にはないのだが、いや、美味しい店だった、満足満足、また行こう、と思うことは
あるのだが、なにせ休みの少ないワタシ達の稼業。なかなか次に行く時間が取れないのが現
実である。しかし、先週行ったばかりのこの鮨屋にまたすぐ行くという事態には理由があった
のである。

先週のお昼、ワタシは女友達数人と一緒にランチを楽しんだ。みんな(ワタシを除いて)酒豪で
ある。昼でも、シャンパンから始めてガンガン飲むのである。ワタシとて弱いとはいえ、キライ
ではないのだ。一緒になってぐびぐび飲んだ。楽しくランチを過ごして、機嫌よく解散し、その後
ワタシはダンナと合流して墓参りに行ったのだ。その帰途、夕飯時になり、ダンナが晩飯はどうし
よう?と言い出し、それじゃあ軽くつまめる鮨がいいかなと思い、かねてより懸案だった苗穂方
面の鮨屋を訪ねることとなったのである。その鮨屋は何人もの方が「安くて美味しくて、仕事の
してある鮨」とお勧め下さっており、とても行ってみたかったのである。

鮨は旨かった。でも、ワタシは3貫しか食べられなかった。なんという体たらくであろうか、その頃
になって昼酒が効いてきて気持ちが悪くなったのであった(T_T) 何度もトイレをお借りして、鏡
に写る真っ白な自分の顔をみては情けない思いだが、もうどうしようもない。一刻も早く帰るしか
ない。と、思うのだが、席に帰れば我がダンナ、機嫌良く「次は鮑ね。あ、それと蟹をまたお願い」
などと注文しているではないか。辛抱を重ねたが、限界は来た。未練を残すダンナを無理やり
連れてお店を後にしたのであった。

こんな訳で即座に「裏を返す」ことになったのである。旨い鮨を握ってくれるこのお店にワタシは
大変失礼なことであった。その非礼を詫びて、旨い鮨をしこたま頂くためにすぐにも参上したの
である。体調も万全でお腹を空かせてお任せで頂いた鮨はたいそう旨かった。みっともない真似
のおかげで、顔も覚えて頂き恥ずかしくはあるが、楽しい時間を過ごすことができたのであった。
迅速な「裏を返す」をして本当に良かったーー。




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