初めての経験
休日の夜、おでん屋さんに行く計画を立てた。知り合いのグルメライターの人が美味しいと絶賛
していたからである。そもそもワタシはおでん専門店に行ったことが無い。おでんはコンビニのも
のか居酒屋などでたまに食べるくらいである。旨いおでんについて考察したこともないし、おでん
に関する思い出といえば、海水浴に行き海の家で売っているコンニャクとカマボコを割箸にさして
甘い味噌だれをつけたアレが美味しかった、という程度のものだ(笑) そんなおでん初心者のワタ
シは件のライターが言う、小さな1軒家で無愛想な店主が黙々とおでんを煮ている、運が良くなけ
れば席をとるのも難しいとされる上級者向けのような店に行くのだ。やや緊張してダンナの背中に、
隠れながらのれんをくぐった小心者のワタシである(^_^;。
幸いちょうど帰るお客と入れ替わりに席に着くことができ、まずはお酒を注文して壁の品書きを
眺めた。「と、豆腐と大根とコンニャクお願いします。それと・・・」あっ、あった。「たちかま、も。」
実はお昼に食事したお店で偶然見た雑誌に岩内で作られる「たちかま」の記事があったのだ。
「タチのカマボコ」である。写真がとても旨そうで、そして記事中にある「寡黙な店主のおでん屋」
とはこのお店の事ではないかと推量していたのだが。色の薄い出汁がよく染みた大根をつつき
ながらお酒をちびちび飲ってると、店主がお客と楽しそうに話している。「寡黙な店主って、俺の
事? 俺、寡黙かなあ?ははははは。」おお、もしややはりそうなのか。店主は実際それ程寡黙
ではない。隣の女性2人連れが頼んだ卵を「二人で食べるなら、食べやすくしてあげるねっ」と
半分に切ってあげた。グルメライターお勧めの「うに」(海水うにと岩海苔を椀に入れ出汁を張って
ある)を頼むと「二人で食べるんでしょ、多めにしたよ!」なかなか優しくて愛想が良いのである。
「たちかま」が来た。まっ白くなめらかでつややかな丸い「たちかま」が半分に切ってあり、ゆで
卵がふたつ並んでいるみたい。箸で切ろうと試みるが、とても柔らかいのにその弾力は箸の進
入を許さない。それではと、そのまま箸でつまみ上げ口に運ぶ。歯が「たちかま」にあたり、優し
い抵抗の後噛み切れる。そのなんとも言えない食感が新鮮だ。すべらかで、ぷにぷにとして、
むっちりと緻密であり、しなやかである。様子を見ていたらしい店主から声がかかった。「箸で
切れないでしょ。」「ほんと、柔らかいのにすごく弾力があって、この食感は初めての経験です!」
にこにこして店主はうなづいた。
おでん屋のカウンターで酒を飲みながら、おでんをつつく。なんと、しみじみすることであろうか。
なんだが、隣の会社員が携帯に貼った浮気の彼女との2ショットのプリクラを見せて自慢してい
る。「どう、これ」「キレイですねー、勝ってますよ。でも、いいんですか、携帯に貼っちゃって。」
「あ、大丈夫。俺、仕事と携帯は家に持ち込まないの、ひゃはははー」 しみじみ、半減(笑)。